SF作家が2074年の未来に関係する小説を書き、その小説に関連する作品を東京藝術大学の50人の学生が作る、という美術展『2074、夢の世界』(Comité Colbert)のための作品。小説『記憶の片隅』に出てくる「先への想像力を一切もたない男」にインスピレーションを受け、想像力をもたない人にとっての空間体験とはどのようなものか、翻って、私たちが持っている空間体験のための能力とはなんであるかを考察した。主題に選んだものは、建築物や街の曲がり角である。曲がり角は、1歩先へと進んでいくたびに1°ずつその先の情報を獲得することができる、シークエンスとして特異な場所である。人間がみな、その先に床が続いていることを疑いもせず角を曲がっていけるのは、記憶と経験に基づく想像力によるものである。本作品では、街を歩いて見つけた曲がり角を任意の角度と距離で撮影し、その写真を組み合わせて裏側を想像により設計し、模型を制作した。その模型を再び、角を曲がっていく連続写真として撮影し展示することで、鑑賞者はそれぞれ、連続するショットに納得したり予想と異なると感じることにより、自身のもっている空間への想像力を自覚する。