建築物のもつコンポジションは、内部にいる身体の動きに応じて変化していく。また、人が前に進むとき、周囲を取り巻く空間は後ろに進んでいくようにも見える。このような人間と空間の相対的な動きの関係に着目し、身体の位置を重要視して既存建物の効果的なシークエンスを記述する試みを行なった。人間の身体とその他のオブジェクトの関係を記述するというひとつのルールにより、家具・建築・ランドスケープ・地球までを、同一の図として書き表していくものである。リサーチでは初め、ある建築空間を見る身体の向きや対象までの距離、それを設定する物理的な壁(壁により阻まれていて行けないなど)や心理的な壁(道があるためそのうえを歩くなど)についての記述を主としていたが、リサーチの数が増えるにつれ単なるコンポジションの問題に留まらず、人間の目の視力、立体視と平行視、遠近法、動体視力など、生体的な特徴と関係をもつものにまで及んでいった。私たちが無意識のうちに持っている、身体のもつ機能と建築空間との緊密な関係を読み解いていくことは、建築のなかで起こる漠然とした居心地の良さの設計に役立つことなのではないかと考えている。
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