細長い2階建のギャラリー・駒込倉庫で行われた、美術家・大岩雄典の個展『スローアクター』の会場構成。大岩から与えられた要件は、2階に設られた展示室が1階にすべて落下し美術品だけが姿を消すこと、つまり、2階は1階の上にあると同時に、2階の展示の落下した「事後」であるということである。この展示を訪れる人はまず1階で、割れたガラス、崩れた木の板、転がった金具や散らばったタイルなどを目の当たりにする。廃墟のような部屋を通り過ぎて2階に向かうと、はじめに見た廃墟が2階の展示室の落下後の姿であったことを知る。エントランス直上の天窓の下に割れた花瓶、上にまだ花の活けられている花瓶を置くことで、2コマ漫画のような関係にある上下の展示室を接続している。展示から帰る際、人は外に出るために再び1階に降りることになり、このときまた時間は進み展示は落下してしまう。展示空間のなかでは、作品の意味や展示の構造を把握していくために、注意深く空間を見、作品との距離を図る鑑賞者の身体を利用し、近すぎる、身体の向きと揃う、揃わない、小さすぎて読めない、見切れる、などと快適な鑑賞環境からのぶれが随所に発生し、身体が動き続けるような状態を目指した。ホワイトキューブのなかで「視覚だけの身体」になろうとしても、人間には身体の制約が付き纏ってしまうということを突きつけるような展示である。
企画 : 砂山太一 美術家 : 大岩雄典 会場設計 : 奥泉理佐子 website design : 山本悠
re・だんだん・see      一望できないものの設計と批評  
登壇者 : 大岩雄典 (美術家)福尾匠 (批評家)・奥泉理佐子
すごくこわくてきもちいい毒がじわじわ効いてくる(大岩雄典個展「スローアクター」をめぐるおしゃべり)
テキスト :  河野咲子 (文筆家)

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